まず、第一回。 ぼくに、マンガを描くきっかけを作ってくれた、小学校の頃に転校してきた二人の同級生について書きたい。 二人とも、マンガ家にはならなかったが、ぼくにとって、生涯忘れられない友だちだ。 庄司孝夫くん 彼は、小学校5年生の時に転校してきた。 複雑な家庭で、お母さんが結婚・離婚を繰り返し、その度に『 庄司 』になったり『 武藤 』になったりと、名字が変わった。おまけに、幼い弟と妹がいたが、全員お父さんが違う。 それに、極端な 斜視で、まっすぐ歩く為には頭を横に向けて、まるでカニの横ばいのようにして、歩かなければならなかった。 おまけに、言語障害があり、言葉が聞き取りにくい。初めて話をする人は、何を話しているのか分からないだろう。 彼は、外で遊ぶ事が苦手だった。いつも、家の中にいる。学校でも友達をなかなか作らない、、、、というより、そんな事が原因で、いじめられてしまうのだ。 ところが、彼には誰にも真似の出来ないものがあった。それが、マンガを描くことだった。 その頃、横山光輝氏 の「伊賀の影丸」とか、小沢さとる氏 の「サブマリン707」なんていうのが人気だったが、その画風そっくりに描く事が出来た。 しかも、普通なら、真似することで「 うまいっ! 」なんて言われるのだが、彼の場合、自分でストーリーを作り、コマわりをして、オリジナルマンガを作れたのだ。しかし、彼はそれらを人に見せる事はなかった。 なぜなら、複雑な家庭と、人見知りの内向的な性格だったからだ。 土井竜介くん 彼も、庄司くんと同じ時期に転校してきた。 転校生同士で気があったのだろうか。それとも、マンガを描くという共通する趣味で出会ったのだろうか。いつも、庄司くんと一緒に、マンガを描いていた。 土井くんは、動物を描けるという、ぼくにとっては憧れのような腕をもっていた。 犬や狼、馬やライオンなど、荒々しい雰囲気の動物を、サラサラと描いた。とても、真面目な人間で、勉強もよくできた。 夏の暑い日。ぼくは人の家の庭を突っ切って、歩いていた。田舎では、子どもが庭を突っ切っていくことなど、当たり前なのだ。 ある家の庭を突っ切ろうとした時だった。 離れの家の中で、一つの大きな机を挟んで、男の子が二人、こっちを見ていた。それが、庄司くんと土井くんだった。 |
二人は、突然現れたガキ大将のぼくに、ちょっとびびっているようだった。 「 なにしてるん? 」と聞くと、二人声を合わせて 「 マンガ、描いとるん。」と言った。 「 見せてみい。」と、偉そうに言って、ぼくは、目の前の白い紙をとりあげて驚いた。 マンガだ。 それも、まだ見た事もないぐらいに、美しい。ぼくは、まだ一度も、生の原稿を見た事がなく、その美しさに感動した。 「 お前ら、すげえな・・・・。おれにも、マンガが描けるかな? 」 「 う、うん。」 「 ほんなら、描き方を、俺に教えてくれ 」 そう言って、ぼくは二人の弟子になった。弟子の方が威張っていたが・・・・。 ぼくらの口癖は、 「 東京に行こう。行って、マンガ家になろう。」だった。 しかし、高校を出てマンガ家になったのは、ぼくだけだった。 庄司くんは、弟や妹のために、中学を出ると田舎の映画館に勤め、いつの間にか、行方不明になった。 土井くんは、ぼくと同じ高校に進み、地元の役場に勤めている。 この二人との出会いがなかったら、ぼくはマンガを描いていなかっただろう。今は、会う事もないが、心から二人には感謝をしている。だから、ここに二人の事をどうしても、書き留めておきたかった。 ありがとう。庄司くん。土井くん。
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