つのだじろう

スタジオ・ゼロで、藤子不二雄先生にマンガを見て頂き、修羅場の仕事場を、見学させて頂いていた。すると、藤子先生に、

「隣に、つのださんがいるから、つのださんにも、見てもらったらどう?」っと、言われた。

スタジオ・ゼロは、石森先生や藤子不二雄先生、赤塚不二雄先生・つのだじろう先生などが興したアニメ制作会社。だから、つのだ先生がいてもおかしくはない。しかし、その時のぼくは、まさか、つのだ先生が、そこにいらっしゃるとは、思いもよらなかった。

スタジオ・ゼロの外観 link

「えっ、つのださんって、つのだじろう先生ですか!」

「ああ、ちょっと待ってて。」

藤子先生は、廊下に出て正面の部屋をノックした。すると中から、

「いるよー。どうぞー!」

っという声。ドアを開けると、マンガの本で見た似顔絵どおりの、つのだじろう先生 link がいらした!

つのだ先生は、最近は、着物姿や作務衣などでテレビなどに出演されるが、その頃のつのだ先生は、とてもダンディで、背広にネクタイ姿。とてもぼくが想像するようなマンガ家には見えなかった。特に、ネクタイはイタリアの、皮製のもの。飲みに行く場所も、フラメンコダンスの見られような高級な店・・・。ともかく、何にしてもスマートだったのだ。

そしてまた、最近では、つのだじろう先生と聞いて、思い浮かぶのは、きっと、「恐怖マンガ」とか「心霊マンガ」などではないだろうか。しかし、ぼくにとっては、「ブラック団」や「怪虫カブトン」「忍者あわて丸」というギャグマンガの印象の方が強い。

つのだ先生の素晴らしいところは、ぼくの知る限りでは、力を抜いたような作品が、ひとつもないという事だ。忙しくなれば、どうしても絵が荒れてくる。そして、たくさんのストーリーを考えている内に、流されてしまう時もある。時間に追われ、どこかで妥協していくところが、どんなものにもある。しかし、つのだ先生の作品には、そんなものをうかがわせる物が、微塵もないのだ。これが、プロだ。

そんな、つのだ先生の批評は、とても辛口だったと覚えている。しかし、一番覚えているのは「デッサンを、もっと勉強しなさい。」ということだった。

ぼくは、絵を習ったり、勉強するということは、学校の授業程度にしかない。だから、真剣にデッサンを勉強したことがなかった。いかにマンガが、略画であっても、基礎となる形を取れなければならないが、そういったことを、ズバリ見抜かれてしまっていた。

ところがここで、突然素晴らしいことが起きた。

「夏休みで、時間があるなら、しばらくウチで、勉強をしないか。」っと、つのだ先生がおっしゃったのだ。

それは、まだ、高校生のぼくが、否、こんなへたっぴなぼくが、アシスタントをできるっていうこと?……もちろん、「お願いします!」っと、後先考えず答えてしまった。

それから、夏休みの後半の2週間。ぼくは初めて「プロ」という、厳しさを経験させて頂いたのだが、この素晴らしい経験については、また別の機会に書こうと思う。