これからお話しする事は、私や友人が実際に体験した事や、聞いた事ばかりです。 私には、霊感はありません。だから、何の前兆もなくそれは起きるのです。 信じるとか信じないとか、ウソとか本当とか、そんな事を論じても意味はありません。 だって現実に起こってしまった事なのですから・・・・。 |
第八話 : 開かずの間
亮は、ランドセルを 土間から 座敷へ 放り込むと、そのまま 外へ 飛び出していった。 家の 前では、同じ クラスの 一郎と 武が 待っている。
残りの二人もそれぞれ 家にランドセルを 置いて、一行は、鉄夫の家が 見える所まで やって来た。 見ると 門の 前で、鉄夫が みんなの 到着を 待ち受けていた。
家は屋敷も庭も広く、裏庭の一角を除くと、小さな子供が隠れる場所は、ふんだんに ある。 裏庭の一角を除く・・・というのは、そこに 少しばかりの 竹林が あって、その側に 代々の墓があり、子供は 立ち入らないようにと、大人から きつく言われていたためである。
だから、当然、そこに 立ち入ろうなどとは 考えてみたことも ない。
旧家らしく 板敷きの 食堂は 広い。 だが、その 食堂に 入ると 異様な 黒い壁が、真っ先に 目に 入ってくるのだった。
「隣の 部屋は、『開かずの間』だから、絶対 入っちゃあ イケナイんだって。」 鉄夫に 聞いても、それ 以上の 事は、分からない。
大の 大人でも、絶対に 開けられない様に なっているのだが、よく見ると、引き戸の 上部と 両横に お札が 張ってある。
黄ばんだ シミの 古さから、大分 昔に、その 部屋が 封印されたことが 分かる。
例えば、廊下側の 障子は、上から 大きな板を 打ち付けて、庭側の 雨戸も 締め切られ、それらすべてが 五寸釘でしっかりと 打ち付けてあるのだ。そして、やはり、それぞれにお札が何枚も 重ねて 張られている。
それは、食堂側の 黒い引き戸の 一部分に、ごく 小さな穴が 開いているのを 見つけた時の事だ。 穴は、本当に小さなもので、よくよく見ても分からない程の小さなもの・・・。 亮は、顔を 引き戸に 押し付けて、穴から 中を 覗いてみた。
それもそのはず、閉め切ってある部屋の中、真っ暗で明かりなどないのだから・・・。 それでも、顔を 押し付けたまま 見ていると、段々、その 暗さにも 目が 慣れてきた。
程なく、それが、小さな お膳で ある事が、分かってくるのだが、お膳の 上には、お椀と お皿らしき 丸い物が 置いてあった。
そうなると、好奇心の 強い 亮の 事・・・。 中を 覗く機会を、この 家に 来る度に うかがう様に なった。
亮は、心の 中で 小躍りした。
そこで、子供たちのために 用意された おやつを 食べる。 亮は、おやつを 一気に 平らげた。早くしないと、鉄夫の 母が 帰って来てしまうからだ。 他の三人がまだ食べ終わらない内に、亮は、そそくさと席を離れ、以前覗いた小さな穴を探し始めた。
でも、そのまま ジッと 目を こらした。 部屋の 中央に 置かれている お膳と お供えらしきもの・・・・。 亮の 視線は、お膳から、暗い 部屋の 中を さぐるように、ゆっくりと 移動していく。
暗い部屋のお膳の位置から、丁度斜め横辺りに、赤い点の様なものが、ふたつ並んでいる。 亮は、それを じっと 見つめた。
そう、その二つの 赤い点は、横に 並んでいて、まるで、暗闇の中の ネコの 目の様に 鈍い 光を 放っているのだった。
赤い 鈍い 光は、亮を 闇の 中から、ジッと にらみつけている様な気が した。
亮には、ひどく 長いものに 思えたのだが、後ろにいる 鉄夫たちを 呼ぼうとした瞬間、その光が、フッと 宙に 浮いた。
その 光が、亮の 目前に 来た時、亮は 体ごと、はじかれる様に 後ろに 倒れた。
大人になって、郷里を離れた今、当時を振り返っても、あの赤い光が何であったのか。
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