これからお話しする事は、私や友人が実際に体験した事や、聞いた事ばかりです。

私には、霊感はありません。だから、何の前兆もなくそれは起きるのです。

信じるとか信じないとか、ウソとか本当とか、そんな事を論じても意味はありません。

だって現実に起こってしまった事なのですから・・・・。




第八話 : 開かずの間



地方の代々続く農家や 旧家などに、時々、『開かずの間』が 存在すると聞きますが、私は、まだ そういう所に 行ったことが ありません。


ここに、一軒の旧家が・・・。そして、そこには、『開かずの間』が ありました。




「お母ちゃん、鉄夫ン家 行って来るっ。」

亮は、ランドセルを 土間から 座敷へ 放り込むと、そのまま 外へ 飛び出していった。

家の 前では、同じ クラスの 一郎と 武が 待っている。



亮の 母親が、窓から 覗いた時には、三人の 姿は もうそこには 見えなかった。


亮たちが、これから 行こうとしている「鉄夫の家」は、代々 続いた旧家で、広い農地と 幾つもの 山林を 持っており、父親は 村の 実力者だった。



家は、村の 一番 奥まった所にあり、亮の家からだと 村の中央を突っ切るようにして行くことに なる。

残りの二人もそれぞれ 家にランドセルを 置いて、一行は、鉄夫の家が 見える所まで やって来た。 見ると 門の 前で、鉄夫が みんなの 到着を 待ち受けていた。



四人は、今日、鉄夫の 家で、かくれんぼをして 遊ぼうと 約束していた。

家は屋敷も庭も広く、裏庭の一角を除くと、小さな子供が隠れる場所は、ふんだんに ある。

裏庭の一角を除く・・・というのは、そこに 少しばかりの 竹林が あって、その側に 代々の墓があり、子供は 立ち入らないようにと、大人から きつく言われていたためである。



もっとも、大人たちから言われるまでもなく、この家で 生まれ育った 鉄夫以外の 三人は、竹林と 並ぶ その墓群を 薄気味悪く 思っていた。

だから、当然、そこに 立ち入ろうなどとは 考えてみたことも ない。



むしろ亮にしてみれば、苔むした 古い墓よりも、鉄夫の 家の中に ある「本当に誰も 入ることの 出来ない 部屋」への 関心の方が 大きかった。



「誰も 入ることの 出来ない 部屋」・・・この 家には『開かずの間』が あるのだ。



その 部屋は、一階の 中央にある 広めの『座敷』で、食堂に 隣接している。

旧家らしく 板敷きの 食堂は 広い。

だが、その 食堂に 入ると 異様な 黒い壁が、真っ先に 目に 入ってくるのだった。



亮は、初めてこの家へ招かれて遊びに来た時、食堂の 片面の 壁だけが、真っ黒に 塗りつぶされているのが、不思議で ならなかった。

「隣の 部屋は、『開かずの間』だから、絶対 入っちゃあ イケナイんだって。」

鉄夫に 聞いても、それ 以上の 事は、分からない。



黒い壁・・・・実は それは 壁ではなく、食堂と『座敷』との 境である 引き戸だった。



板の引き戸が、黒い ペンキで一面 塗りつぶされており、その 引き戸と 壁が、何カ所にも わたって、五寸釘で 打ち抜かれている。

大の 大人でも、絶対に 開けられない様に なっているのだが、よく見ると、引き戸の 上部と 両横に お札が 張ってある。



お札は幾重にも重ねて張られていて、下の方のお札は、もう黄ばんでシミが浮き出ていた。

黄ばんだ シミの 古さから、大分 昔に、その 部屋が 封印されたことが 分かる。



その 座敷は 完璧に 閉め切られ、どこからも、覗くことさえ 出来ない様に なっていた。

例えば、廊下側の 障子は、上から 大きな板を 打ち付けて、庭側の 雨戸も 締め切られ、それらすべてが 五寸釘でしっかりと 打ち付けてあるのだ。そして、やはり、それぞれにお札が何枚も 重ねて 張られている。



亮は、この部屋の事が 気になって 仕方がない。その 思いは、この家へ 来る度に 強くなってくる。




実は、以前、一度だけ 中を 覗いたことが あった。

それは、食堂側の 黒い引き戸の 一部分に、ごく 小さな穴が 開いているのを 見つけた時の事だ。

穴は、本当に小さなもので、よくよく見ても分からない程の小さなもの・・・。

亮は、顔を 引き戸に 押し付けて、穴から 中を 覗いてみた。



・・・・やはり、真っ暗で 何も 見えない。

それもそのはず、閉め切ってある部屋の中、真っ暗で明かりなどないのだから・・・。

それでも、顔を 押し付けたまま 見ていると、段々、その 暗さにも 目が 慣れてきた。



何やら、部屋の 中央に、黒い 固まりの様な 物が 置いてある。

程なく、それが、小さな お膳で ある事が、分かってくるのだが、お膳の 上には、お椀と お皿らしき 丸い物が 置いてあった。



「何かお供えしてンのかな ?」



その時、見る事が出来たのはここまでである。鉄夫の母が来て、中断されてしまった。

そうなると、好奇心の 強い 亮の 事・・・。

中を 覗く機会を、この 家に 来る度に うかがう様に なった。



そして 今日、遂に「絶好の機会」が 来た。買い物にでも 出かけているらしく、家には 誰もいない。

亮は、心の 中で 小躍りした。



鉄夫に 招かれ、みんな まずは 食堂へ・・・・。

そこで、子供たちのために 用意された おやつを 食べる。

亮は、おやつを 一気に 平らげた。早くしないと、鉄夫の 母が 帰って来てしまうからだ。 他の三人がまだ食べ終わらない内に、亮は、そそくさと席を離れ、以前覗いた小さな穴を探し始めた。



その 穴は、すぐに 見つかり、亮は、穴に 飛びつくようにして 覗いて見た。



やはり、暗い。

でも、そのまま ジッと 目を こらした。

部屋の 中央に 置かれている お膳と お供えらしきもの・・・・。

亮の 視線は、お膳から、暗い 部屋の 中を さぐるように、ゆっくりと 移動していく。



「あれ ? 何だろう ? 」 亮の 視線が 一点で 止まった。

暗い部屋のお膳の位置から、丁度斜め横辺りに、赤い点の様なものが、ふたつ並んでいる。 亮は、それを じっと 見つめた。



「ネコの目玉みたいだな。」

そう、その二つの 赤い点は、横に 並んでいて、まるで、暗闇の中の ネコの 目の様に 鈍い 光を 放っているのだった。



亮の 目は、その 点に 釘付けに なってしまった。 何故か 目を そらす事が 出来ない。

赤い 鈍い 光は、亮を 闇の 中から、ジッと にらみつけている様な気が した。



どの位、そうしていたのだろうか ? 多分、2 〜 3分ほど だったのだろう。

亮には、ひどく 長いものに 思えたのだが、後ろにいる 鉄夫たちを 呼ぼうとした瞬間、その光が、フッと 宙に 浮いた。



そして、すごい 勢いで、亮の 方へ 向かって 飛んできた。

その 光が、亮の 目前に 来た時、亮は 体ごと、はじかれる様に 後ろに 倒れた。




ドッタ〜〜ン。



「どうしたの ? 亮ちゃん。」



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この 話は、残念ながら、ここまでで ある。


亮は、その後、二度と その部屋を 覗き見るという事は していないからだ。

大人になって、郷里を離れた今、当時を振り返っても、あの赤い光が何であったのか。


蛍やその他の発光する虫とは考えにくい。なぜなら、亮が覗き見たあの小さな穴以外に 何かが 出入り出来る様な 穴など、開いていたとは 到底 思えないからだ。



あなたは、『開かずの間』を、どう 思われますか ?




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