第九話 : ばい ばい
今まで そこに いた 人間が、次の 瞬間・・・。そして その直前、彼は 言ったのです。
「ばい ばい。」
「ただいま。」
「おっ。 お帰り。 朝、十時。 こんな 時間に 『ただいま。』・・か。 大学生は いいなぁ。」
仕事場として 借りている 部屋に、隣に 間借りしている 住人が 入ってきた。大学四年の そろそろ就職活動が 始まる 平田という 青年だ。 わたしとは、同郷という事で 親しく 行き来 している。
「兄貴、これから 話す 事、俺 正気で 言うんだからね。」
「何だよ。 どうしたの ? えらい 真顔じゃ ない。」
平田は わたしの 机の そばの ソファに 腰を おろすと、真剣な 眼差しで そう 言った。
彼は、わたしが 仕事仲間とマ〜ジャンを する時、必ずといっていいほど メンバ〜に 加わる一人なのだが、昨日の 夜から 友人たちと 飲みに 出掛けていた。
そして、その 飲み屋で 起きた 信じられない 出来事を 語り始めた。
就職活動が 本格的に なったら、なかなか 集まれなくなるので、みんなで 宴会を やろうと いう 事になった。 もっとも、大学生は、何かにつけて 飲んだり 騒いだり するものだが、いつもの そのノリで 十四・五人、 大学の 近くの 飲み屋に 繰り出したらしい。
学生向けの その 飲み屋は、一階は カウンタ〜と いくつかの テ〜ブルが あり、二階に 宴会用の 座敷が ある。 平田たちは、人数も 多かったので、二階の 一番 端の 部屋に 通された。
いつものと 同じ様に、ドンチャン騒ぎを して、いい加減 その バカ騒ぎも 静まってきた頃、一人がフラフラしながら 立ち上がった。
「トイレ〜。 トイレ、行くぞ〜。」
彼は、陽気に 叫びながら、部屋の 隅まで 行き、障子に 手をかけ スッと 引き 開けた。
そして、部屋から 出て みんなの 方を 振り返り、
「ばい ば〜い。」 そう言って、障子を 閉めたのだ。
平田たちも、一斉に 「お〜。 ばい ば〜ぃ。」
ここまでなら、何と 言うことは ない。 ごく 普通の 光景なのだが・・・・。
その時、誰かが 気づいて 言った。
「あれぇ〜。 アイツ、どっち 出てったの ? あそこ、窓 じゃ ねぇの ?」
「うひゃはははは。 バッカだねぇ。 ホントだ。」
その 彼が 出て 行った 窓に 一番 近い 者が、立って 行って 障子を 開ける。
だが、もう そこには、彼の 姿は なかった。
彼は、下に いた。 落ちて・・・・即死だった。
彼が、出た 窓・・・・。 そこには、窓の 枠が あるだけで 人が 立てる ような スペ〜スなど 全然なかった。
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これは、まぎれもなく 実録です。
ただ、不思議なのは、その 落ちた 学生は、確かに 向こう側に 出て、そこに 立ち 振り返った。
そして、部屋の中の 人間に 手を 振り、障子を 閉める・・・・。
ここまでの 動作を しているのです。 そこに、人が 立てる スペ〜スなど ないのに。
これは、平田 一人が 見た 訳で なく、その場に いた 全員の 証言です。
いくら 酔っているとは 言え、それだけの 人間の 見間違えとは 到底、思えないのですが。
即死した 学生は、その 少しの 間、宙に浮いていた・・・と、いう事なのでしょうか ?