人生には、節目が いくつもあり、一生 忘れられない そんな 日が、いくつか ある。 高校二年の 夏休み、僕は、一枚の 地図を 頼りに ある 家を めざしていた。 しかし、道に 迷い、いつまでたっても 同じ様な所を グルグル 回っているだけで、汗 ビッショリになって困ってしまった。 立ち止まった所に 八百屋が あって、そこの ご主人が、心配そうに 顔を のぞかせ 尋ねてくれた。 「どこか 探してるのかい ?」 「はい、 漫画家の 石森先生の お宅を・・・・・。」 「なんだ、それなら、すぐ そこだよ。」 「あ、ありがとうございます ! !」
ドキドキ していた。 とうとう、来てしまった。 小学校の頃から 憧れていた 石森 章太郎 の ところに ! 表札に、『小野寺 』と 書いてある。・・・・あっ、そうか ! 石森先生の 本名は、小野寺だったっけ!・・つまり、何度も 先生の 家の 前を 行ったり 来たり していたんだ !!
呼び鈴に、指を かけた。 ふるえている・・・・。興奮して、震えているのだ。 僕は、深呼吸しながら 自分に 言い聞かせた。
『何を、震えている。オレも 人間なら、石森 章太郎も 人間だ。 同じ 人間なんだ ! 』
インターホンの 音で、当時 家政婦を なさっていた 佐々木さんが 出てきた。
「あの 岐阜から 出てきた 山田 ゴロ という 者です。 ぜひ、先生に 自分の 作品を 見ていただきたくて、訪ねて 来ました。 お願いします。 先生に 会わせて下さい。」
すると、なんと 運の いいコト だろう。 すんなりと ドアは 開けられ、僕は 招き 入れられた。 玄関で 迎えてくれた 佐々木さんの 顔を 見て、僕は 思わず 微笑んで しまった。 先生の 作品の 中に 必ず 出てくる、家政婦さんの 顔に そっくりだったからだ。・・・ そうか。この人がモデルなんだ・・・ ! って。
僕は、まず 仕事場に 通された。
「先生は、夕べ 徹夜で まだ 寝ています。 あと、一時間ほどで 起きますから、それまで 待っていて下さい。」
佐々木さんは、コーヒーを 置いて さがった。 僕は、先生の 仕事場に たった 一人 残された。 その時、気づいた 事が あった。 僕の 部屋と 同じ ニオイが するのだ。 墨汁の ニオイだ。 アシスタントの 机の上には、先生の 原稿が ある。僕は、それを 手に とって ソッと 指で なぞってみた。
鉛筆の 生き生きとした 下絵。 その上で、自由に おどっている ペンの 線。 山と 積まれた 資料本。
・・・・・カーテンの 向こうに プールが 見えた。
アッという間に、一時間が 過ぎた。 しかし、先生は いっこうに 現れない。 アシスタントが、ひとり、また ひとりと やって来た。 僕を 見て、『何だ、こいつ。』・・・と、思っているらしい。 軽く、頭を 下げるくらいで、話かけても くれない。
僕が、先生の 家に 訪ねて来たのが、朝の 十時頃だった。 いつの間にか、昼の 一時を 過ぎている。 ドキドキと、イライラが 混ざってきた。 そんな 時だった。 背中の方で、ガチヤッと 音がして・・・・・。
怪物が、現れた ! !
続く |
第八回:「出会い」 |
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