「天才の思いで」




第十二回:「渡りアシスタント」


 困った。

 石森先生の所に行くには、中城先生の所を やめなければならない。中城先生の所で 何か不満があるわけではない。自分の わがままだけだ。 それに 僕の性格は、ひょいひょいと 移っていけるほど ドライでは ない。 むしろ、義理とか人情を大切にする。 前にも 書いたが、中城先生は 厳しい人だ。 顔だって シャレにならない位 怖い。 中城先生の「紅の挑戦者」というマンガに 登場する「ガルーダ」という人物を ご存じの方は、想像して欲しい。・・・怖いでしょ ? だけど、ここまできたら 正直に 言うしかないのだが・・・。

 ところが、中城先生は とても やさしく、僕が 石森先生の所へ 行くことを 承諾して 下さったのだ。 しかも、いろいろと 心配して、将来のことまで アドバイスまでして頂いたのだ。 なかでも 印象に 残った言葉は、

「ゴロ、渡りアシスタントにだけには、なるなよ。それに、ずっと アシスタントで終わるな。」 という 言葉だ。

 アシスタントというのは、漫画家にとって 縁の下の 力持ちみたいなもので とても重要だ。 しかし、アシスタントをする側から見れば、自分自身の 修行の 時間と 場所のようなもので 、いつかは そこから 卒業し、一人前の 漫画家になりたいと 思っている。それが 普通だ。 ( 僕が アシスタントを していた頃は、まだ「 弟子 」というような 感覚の 時代だった。 だから、僕は いまでも、中城先生の 弟子であり 石森先生の弟子だと 思っている。) しかし、この頃は 給料もよく、アシスタントだけで 生活が 出来てしまうせいもあって、ずっとアシスタントをしている人や、アシスタントで終わってしまう人、給料のいい先生から 先生に 渡り歩く人 ( これが、渡りアシスタント ) などが いる。

 人には いろいろな事情も ある。 どういう生き方をするか、どんなことを生業とするか 僕が 、とやかく言うこともない。 だが、何かを 創造していくことを 職業に 選んだ者にとって、そこで 満足してしまうことが、

「それでいいのか ?」という気持ちに なるのだ。

多分 中城先生も、同じような気持ちで「ゴロ、渡りアシスタントだけには、なるなよ。それ に、ずっと アシスタントで終わるな。」と言われたのだと思う。 断っておくが、決して アシスタントを バカにしているのではない。 むしろ、頑張れっと 励ましているつもりだ。  僕も 同じ道をたどったのだから。

                            続く




 第十三回:「ふたつの石森プロ」


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