ぼくが 石森プロに入社と 同時に、仮面ライダーが、大ブレークした。 朝から 晩まで 電話は、鳴りっぱなし。 いや、夜も 関係ない。 来客も 後を絶たず、イラストぐらいなら 描かせて貰えるということで 来たはずなのに、いつのまにか 電話番だとか、荷物運びだとかに 使われている。 石森先生も 週に 何度も、会議に現れ、いつ寝て、いつ 原稿を 描いているんだろうと 関心した。 ぼくの 石森プロの 同期に、成井紀朗くんが いた。 いや、彼の方が ぼくより、一ヶ月ほど 入社が 早い。 2歳年下だが、彼の方が 先輩に なった。 成るちゃんと 呼んでいた。 成井くんだから 成るちゃんなのだが、実際は「 ナルシスト 」の 成るちゃんだ。 いろいろこだわりをもち、自分の気に入ったことしかしない。 頑固で 整理魔で、おたくで・・・はっきりいって、ぼくとは 合わないはずなのに、なぜか ずっと 今も 友達である。 ぼくには ないところを、成るちゃんが 持っているからかも 知れない。 石森プロの中で、仮面ライダーに 出てくる 怪人で 知らないものは 一つも ないくらい、成るちゃんは 頭の中に ファイルしていた。 ぼくといえば、そんなことを 暗記することなど 絶対に しなかった・・・。 できなかったのかな ? それで、イラストを 描くときは、いつも、成るちゃんや、ファンクラブ会長で、奴隷の 青柳君に 資料を 揃えて貰っていた。 一週間に 一度かならず、試写会があった。 東映の プロデューサーや 監督、出版社の記者や テレビ局の人、出演者などが 集まってくる。 自分が 漫画家の 世界に いるのか、芸能界に いるのか わからないほど 華やかだった。 前の年が、世の中から 隔離されていたようなものだから、ほんとうに めまぐるしいと思ったものだ。 ある日、試写会の 会場で、加藤マネージャーに 「今度、彼が 冒険王で、仮面ライダーを 連載するんだが、どうしても アシスタントが必要なんだ。 プロとしても、バックアップするために 山田君、やってくれないか。」と、頼まれた。 ぼくの 目の前に、頭と 手と 足が でかい男が ニコニコと 笑って 立っていた。 「どうも。 すがやみつるです。 よろしく」 「山田ゴロです。 よろしくお願いします。」 なんだか、とても 人当たりが いいのに、妙に パワーを 感じる男だった。 それも そのはず。 石森先生の代わりに、冒険王で 仮面ライダーを 描かないかと、彼以外にも 加藤マネージャーは、何人かに 声をかけていた。 その中で、彼が 一番へたくそで ( これは、すがやくん本人が、ぼくに 言っていたことだからね。 すがやくん、気に さわったらごめん ) 加藤マネージャーも 石森先生も、期待していなかったとか。 ところが、試しに 描いて 持って来なさいと 言われて、他の人は 数枚だったのに なんと スケッチブック いっぱいに 描いて 持ってきたのだ。 その情熱が 先生や マネージャーの心を 動かし、へたでも こいつにしようと 決まったらしい。 この情熱を すがやくんは、ずっと持ち続け、やがて「 ゲームセンターあらし 」で『 小学館漫画賞 』を 受賞するまでに なった。 また、すがやくんは、漫画界でも パソコンを 使い始めた パイオニアでもある。 ぼくと、そんなに 年も 違わない じじいだが、ぼくは ずっと 尊敬している。 すがやくんの アシスタントは、本当に 楽しかった。 実は、ぼくが、結婚する相手に会ったのも、すがやくんの オンボロアパートだったのだ。 続く |
第十六回:「墨汁三滴」 |
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