「天才の思いで」




第十七回:「キカイダー」


 石森プロでのぼくの仕事は、絵本やキャラクターグッズのカットを描くことだった。 漫画家になる方法はいろいろあるが、中でも一番の近道は、アシスタントになることだ。 しかし、前にも書いたが、アシスタントを長くやりすぎることは、問題だ。 まず、背景しか描けなくなる。 ストーリー構成ができなくなる。 友人が少なくなる。 社会のことが分からなくなる。 先生の絵に、なってしまう。こんなことから考えると、ある意味では石森プロに来たことは、ラッキーだったと思う。

 ある日、加藤マネージャーによばれた。

「ゴロちゃん。いよいよ「キカイダー」の、テレビ化が 決定したよ」

「雑誌も少年サンデーに決まったんだが、石森はこれ以上 描く仕事を増やせないんだ」

まったく、先生はアイディアの湧き出る泉のような人だった。

「それで、キカイダーだけの、マンガ 制作 グループを 作ろうということに なったんだが、ゴロちゃんもやってみないか」

「やります。やらせてください」  ぼくは、即答した。

 制作グループは、元先生のところでアシスタントをしていた 「菅野誠(ひおあきら)」・「土山芳樹」のふたりと、墨汁三滴にいた「細井雄二」そしてぼくの4人になった。 制作方法は、先生がネーム(ストーリー構成)コマ割り、下絵までをする。 ぼくらは、人物から 背景・仕上げまでをする。ただこれだけのことだ。 しかし、これはたいへんなことなのだ。 普通なら、先生がネーム(ストーリー構成)コマ割り、下絵・人物のペン入れまでをする。 そして、ベテランのアシスタントが、重要な背景をまかされ 他のアシスタントが、ほとんどの背景と仕上げをすることになる。 しかし、制作グループには、そんな流れがないのだ。

ぼくが、先生のところへ下書きの入った原稿を、もらいに行く。 石森プロに全員集まる。 そして、ページ数を4人で分ける。「じゃあ、始めようか」で、二日ぐらいであげてしまう。 淡々と書いてしまうとこれだけのことだが、ぼくは最初の時のことを今でも忘れない。

 先生は、練馬の桜台駅のすぐ近くにある、「ラタン」という喫茶店でネームをとったり、編集者と打ち合わせをするのが日課だった。 絵本やキャラクターグッズのカットの監修も、ここでしてもらう。 先生と自由に会えることが、うれしかった。 いつでも、批評や指導してもらえることがうれしかった。

先生は「これじゃだめだ」なんて、いったことがない。

「ここは こうして、ここは、こんなふうに・・・そうすれば、OKだ」という具合に、時には ネームを とるために持ってきた 原稿用紙に、ラフデッサンなどを、具体的に 描いてみせてくれた。 くやしいことに、ぼくが一生懸命描いた絵よりも、先生のラフのほうがいきいきとしていた。 実力からしても、当たり前のことだけれど。

 ラタンで先生から、キカイダーの第一回目の下絵を受け取った。

「じゃ、あさってまでに、頼むよ」

先生に「 頼むよ 」って、頼まれちまった。うそ〜。ほんと〜。どうしよう〜〜。

どうもこうもない。 タクシーで新宿の石森プロまで原稿を 抱えて帰った。 電車で帰って、なくしたらどうしょうなどと考えたからだ。 プロでは、みんながすでに待っていた。 原稿を机の上にならべて、ひととおり読む。

「よし、ここはおれが描く。このページもおれが描く」

「あっ、そのページはおれに・・・」

それぞれ選んでいく。 これからも分かるように、だれが上でも下でもない。 また、だれがどのキャラクターのペンを 入れるかも、決まっていない。

 先生の下書きに、ペンを入れる。 今から考えると、よくできたものだ。 ジローや光子やキカイダーの、鉛筆線に・・先生のかわりに・・・ペンを入れる。 失敗したらどうしょう。 ぼくの線でいいんだろうか。 そんなことばかり考えていたら、ペンの 先から墨汁が、ぼたりとおちた。 ジローの顔が半分真っ黒くなってしまった。

   (ふぇぇぇぇっ ! どうしょう)と、思っているが、だれも何とも言わない。 ただ細井くんが、げらげら笑っている。

「こ、こんなのホワイトすれば、いいじゃん」と、強気で言うと、

「忙しいときは、勘弁してくれよ」と、いつも冷静な土山さん。

土山さんは、先生のところで チーフをしたことがあって、いちばん先生の絵に近い。

 そんな、こんなで仕上がったころ、担当記者がやってくる。 それから、全員でタクシーで、先生のところへ監修を受けに行くことになる。 それは、真夜中のこともあったし、先生が出かけていると、どんなところであろうと 行くことがあった。

 第一回目ということもあって、監修が厳しかった。

「おっ」

先生の目が止まった。あれは、ぼくが描いたページだ

「だれだ。このページ」

「ぼくです」

「気をつけろ。ジローは、キカイダーに変身してから、顔の半分が変わるんだ」

「はい。気をつけます」

先生がニヤッと笑った。 ほっとした。

「だれだ。こんな失敗したのは」って言わないで 先生は、シャレでかえしてくれたのだ。

直さなければならないところが、いっぱいあって半日もかかってしまった。 徹夜をしてあげたので、ほとんどの気力が、みんななくなっている。それからの、直しは辛かった。

                            続く




 第十八回:「ロボコン誕生」


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