仮面ライダー・変身忍者嵐・イナズマン・キカイダー・ゴレンジャー・・・。 先生は超多忙になってきた。 変身もの ばかりになってしまったが、その世界を作ったのは 先生だから仕方がない。 先生の変身するキャラクターには、ある要素が必ずあった。 それは009のころからずっと 同じだ。 主人公は望みもしないのに、変身する体にされてしまう。 必ずしも、その力を喜んでいない。 常に、劣等感に悩まされているのだ。 そうなってしまうのは、意識的なのか、自然なのかは 分からないが、ぼくらは、影のある主人公に、どこか惹かれてしまう。 後年の 先生は、写真家の 篠山紀信のような ちりちり頭で、一般の人の印象も、あの 髪型で 先生を覚えていることだろう。 ある時、 キカイダーの原稿を取りに先生の仕事場で待っていると、ストレートの髪型だった先生が、例のちりちり頭で 恥ずかしそうに 出てきた。 「まだ、ネームの途中なんだ。ラタンに行くから 一緒に行こう。」と 言われ、先生と 外へ 出て 歩き出した。 ぼくは、うずうずしていた。 「先生。」 「なんだ。」 「・・・・。」 「先生、あの・・。」 「なんだ。」 「先生、その髪・・。」 「・・・・。」 「うちのやつが、あんたには、こんな髪型が似合うわよっていうからやってみた。」 「そ。そうですか・・・・うぷぷぷぷっ。」 「ゴロ、おれも気に入らん。だまされたよ。」 「うぷぷっ。」 「そんなに面白いか。」 「はい、なんだか変です。」 「だよな・・・うぷぷふぷっ。へへへへへっ。わははははっ。」 ラタンに着くまで二人で、何度も笑った。 ぼくは、石森プロに入った当時、板橋区の成増にある 先生所有の でっかい 一軒家に 住んでいた。 ・・・と、いうより アパートを借りる お金もなかったので、先生に相談したら、誰も住んでいないので、留守番代わりに住んでいいということで 使わせてもらっていたのだが・・・・・。 しかし、そこは本当に豪華な家だった。 庭も広くたくさんの木が植えられ、二階にも広々としたベランダがあった。 玄関を入ると 洋間があって、そこには 暖炉とでかいカラーテレビと ふかふかのソファがある。 とにかく、ひとりで住むには広すぎて 寂しい。 おまけに、新宿の石森プロにも遠かった。 ところが、たったひとつうれしいことが あった。 それは、先生の作品原稿がすべて、二階にあるロッカーに保存してあることだった。 先生のデビュー作「二級天使」、「サイボーグ009」・「ジュン」・「サブと市」・「さるとびエっちゃん」・・・・・・・・。 すべてがあった。 作品は、封筒にタイトル名と制作年月日を書いて、入れ分けられていた。 その中から、ぼくは見つけた 「龍神沼」を。 ぼくにとって、これほどの感動は今までになかった。 生原稿は 目新しくなくなっていたが、ぼくをこの道に引き込んだのは この作品だ。 ピカソやミケランジェロの絵もすばらしい。 だが、ぼくにとって「龍神沼」は それ以上なのだ。 ふるえる手で、ため息をつきながら、なんども、なんども、なんども 見た。 「先生。」 「なんだ。」 「龍神沼の原稿を見ました。」 「あれ、最高です。」 「・・・・・そうか。」 先生はとても、優しい目で笑っていた 。それ以上なにも言わなくても、ぼくにはわかった。 先生も、この作品を好きなんだ。 とても大切にしているんだろうと。 しばらくして、ぼくは、石森プロの近くにアパートを借りた。 だが、アパートにいるより、石森プロにいたほうが おもしろいので、ほとんどプロに入り浸っていた。 ある夜、先生が 突然 やってきた。 「ゴロ。スケッチブックを持っているか。」 「はい。」 「10枚ぐらいくれ。」 「はい、どうぞ。」 先生は スケッチブックの 用紙を 破り取ると、鉛筆でデッサンを 始めた。 「ゴロ。色鉛筆を持っているか。」 「はい。」 「これに、色をつけてくれ。」 先生から今描いたばかりのデッサンを渡された。 「頭のアンテナは 黄色。 体は 赤。 ハートマークは ピンク。 手は 黄色。」 「腕は 金属色。 ブーツは 黒・・・。」 ぼくは、言われるままに 色を付けた。 「先生。これはなんですか。かわいいですね。」 「根性ロボット・ロボコンだよ。」・・・・・。 続く |
第十九回:「結婚前」 |
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