「天才の思いで」




第十九回:「結婚前」


 ロボコンは、大ヒットだった。 いや、あの頃の 先生の 作品は、パーフェクトに すべてが ヒットした。 ブームというものの、中心に 自分がいる。 とても不思議な 気持ちだった。 とにかく 忙しい。気がつくと、3日間も 寝ていないなんてことが ざらだった。 日本中に 先生の キャラクターが、あふれている。 それらの ほとんどが、ぼくや、成井くんや すがや君なんかが 描いたり したものだ。 うれしくもあり、辛くもあった。

 先生の 作品の 多さに、時々 質問されることが ある。

「 先生は 自分で 描いてないんじゃないの ? 」

「 原作者とか、ゴーストライターが いるんじゃないの ? 」と いうものだ。

   答えは、ノーだ。

先生は、すべて 自分で 考え、自分で 描いていた。

 打ち合わせの 帰り、先生と 本屋に 何度か 寄ったことがある 先生の 本を 読む スピードは 並ではない。一度に 何冊も 小説やグラフ雑誌を 買っていた。 マンガの本は、買ったところを 見たことが ない。買う必要も なかったのだが、見ていないと 言った方が正しいだろうか。

本屋の 主人も、先生を 見かけると、

「 先生。こんな本が 出ていましたよ。」っという調子で、先生の 興味を ひきそうな本を すすめてくる。

ぼくも、何冊か 買っていこうとすると、

「 いいよ、いいよ。」と 言って、先生が 払って下さった。

 映画も よく見ていたようだ。 石森プロに 入った頃、「 2001年 宇宙の旅 」が リバイバル上映された。 ぼくは、土曜の オールナイトで 見に行ったのだが、この時、傑作なことがあった。

 一番前の席に、石森先生が 仕事を 抜け出して 見に来ていたのだ。 その隣に、赤塚不二夫先生がいた。そして、始まる寸前、こそこそと めがねの男が、小さくなって入ってきた。 そして、石森先生の 隣に・・・。

「 おや、石森さん。」

「 手塚さん。」

手塚先生も、仕事場から エスケープしてきたのだ。 すごい 光景だった。

先生は、こうして 本を読んだり、映画を 見たり、いろいろな方法で 情報を 集め、自分の 作品に 反映させていた。

 石森プロに 入って 3年目。 ぼくは また、先生の お世話になることが 持ち上がった。 石森プロに 入ってからの、最初の 仕事は、すがや君の 仕事の 手伝いからだった。 ぼくらは、男同士の 毎日で うんざりとまでは いかないが、退屈を していた。 すると、すがや君が、

「『 墨汁三滴 』の 女の子でも 呼ぼうか。」ってことになり、女の子が3人遊びに来た。 その中に、背の高い、頭のでかい 派手な 女の子がいた。 それが、みよちゃんだった。

その後、みよちゃんと 壮絶な 戦いがあり、ぼくは玉砕して 結婚することになったのだが 一番 最初に、相談に 行ったのは、石森先生だった。

                            続く




 第二十回:「お仲人」


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