結婚式当日。 東京生まれの、みよちゃんの家族や親戚は、有名人に会うというチャンスは、結構ある。 ぼくも、東京へ来て、さすがだと思うことに、そういうことが 一杯あるからだ。 新宿あたりで、映画を見たり、買い物をしていると、必ず一人や二人の有名人に出会える。 特に、紀伊国屋という大きな本屋さんでは、芸能人や文化人という人をよく見かける。 しかし、誰も、そんなには 騒がない。当たり前のようにしてすれ違い、気軽に手を振っていたりする。 これが、東京なんだ。 ところが、ぼくの親戚はちがう。 今日、山から下りてきたのだ。 そして、大都会に放たれたのだ。 しかも、赤坂のど真ん中。 更に、石森章太郎という、超有名人に会える。 ぼくの結婚式は、ついでのようなものだ。 式が終わり 披露宴になると、ぼくのやまざるおじさん達が、お酒をつぎに先生の所にやってくる。 甥や姪も、色紙を持ってやってくる。 「おいおい。」と、注意するのだが、先生は「いいよ。いいよ。」と サインや絵を描いて下さった。 この時に、寄せ書きを友達が作ってくれたのだが、ぼくも 後にも先にも、初めて先生にサインと色紙をいただいた。 先生の存在感というものは、どこにいても、際立っていた。 それは、僕らが抱くからあるものなのか、先生の発しているオーラのようなものなのか、分からないが、常に先生の回りでは、光のような温かなものを感じていた。 ぼくは、何度、先生の指先からこぼれでる、すてきなキャラクターを見ただろう。 それは魔法のようだった。ぼくらは、先生の魔法にかかっているのか。 いや、ちがう。 ぼく自身が、先生によってシルクハットから飛び出した、ウサギなのかも知れない。 続く |
第二十二回:「石森プロをやめる」 |
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