◇9月18日ロータリー館 AM11時〜『マンガの書き方』講演◇

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( 一部、画像は『 工藤裕司さん 』撮影のものをお借りしています )


 講演

 講演を行うロータリー館は、他のパビリオンと違い、万博開催中ずっと同じ展示をしているところではない。 毎日、違う事をしている。昨日、下見をした時は、どこかのロータリークラブがシンポジウムを開いていた。

場所は、目の前にリニア館やHITACHI館などの人気館があり、直ぐ後ろには迎賓館がある。しかし、イメージ的にはとても地味なところだ。

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( 講演会場のロータリー館 )

果たして、誰か講演を聴きに来てくれるのだろうか・・・。

 

 ぼくたちがロータリー館に着くと、すでに、名古屋NHKのカメラや読売新聞社などが、取材に訪れていた。

まずは、音響や講演メニューなどの打ち合わせとリハーサルなのだが、ぼくの講演は、特別なことは何もない。それで、音響を主に使うミツロウさんたちを中心に、リハーサルを行った。

 

 講演開始まで、あと1時間。 しばらくすると、入り口付近のロビーに黒山の人だかりが・・・。

「ゴロさん、ゴロさん。安心して。すごい人ですよ。」 と、ミツロウさんが教えてくれた。

でもね・・・・。

入り口の所で、時間が来ると音楽が鳴って、万博のキャラクター・モリゾーとキッコロと森の仲間達が踊りを踊るのだ。それが、妙に可愛い。始めは人気もなかったのだが、NHKのニュースで一度紹介されると、ウソのように人が集まるようになった。

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( 万博のキャラクター・モリゾーとキッコロと森の仲間達 )

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( モリゾーの表情が変わる )

「あれは、モリゾーとキッコロを見に来ているんだよ。」 と、ミツロウさんに言うと、

「ウソーーーッ、マジですか?」 と、細い目を最大限に見開いて驚いていた。

チンチャリン、チンチャラリンリン、ドンドンドン♪ ・・・と、演奏が始まり、人形たちが踊り出した。

た、確かに、かわゆい・・・。

そして、演奏と踊りが終わる。バラバラと人がいなくなる。

おいおい、大丈夫かよ〜〜〜 !!

 講演途中でも、こいつらが踊り出す。すると、講演中でも何でも客が出て行ってしまうそうだ。

ぼくらの合い言葉は、

「モリゾーとキッコロに負けるな !」でした。

 

 講演開始30分前。少し、心臓がドキドキし始めた。いよいよ客入れが始まる。少しずつ人が入ってくる・・・。親子連れが多い。

ぼくは、子どもが多いことを願っていたので、ちょっとだけ嬉しくなった。

 15分前。ココアちんを連れて楽屋に入った。驚いたことに、楽屋には想像以上の人が働いていた。

「この講演のために、どれくらいのスタッフがいるんですか ?」 と、聞いたら、

「85人です。」と、言う返事。

聞かなきゃ良かった。なんだか、ものすごい責任を感じる。

そして、いよいよ開始だ。NHKの司会者の、

「山田ゴロさん、ココアさんのデジタルマンガの書き方です。それではどうぞ。」 と、言う声でステージへ。

な、な、なんと、会場にはいっぱいの人 ! なにしに来たんだ ? こんな休みの日に !

「初めまして。ぼくはマンガ家の山田ゴロです。この万博会場は愛知県ですが、ぼくはお隣の岐阜県の出身なんですよ。その岐阜県から東京に出て35年あまり・・・。ずっとマンガを描き続けています・・・・。」

この挨拶から、ココアちんが、モニタースクリーンに今までぼくが描いてきたマンガのキャラクターなどを、次々と映し出してくれる。全部で60枚用意したのだが、見せるのは半分の30枚ほどにした。

( ↓ ↓ クリックすると、キャラクターが見られます。)

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 始めは、30代〜40代のお父さん・お母さんたちが、懐かしそうに見ていてくれた。そして、次第に子どもたちが楽しそうに見ていてくれる。「ロックマン」や「ボンバーマン」あたりになると、もうぼくの方は見ていない。そして、最後に「マリオブラザーズ」を見せた。

「このマリオのマンガは、始め3ヶ月だけ連載して欲しいと言われ、3回で終わる予定だったんですよ。それが、あと3回と言われ、結局1年の連載になり、それでも終わらず、気が付いてみたらもう15年も描いています。」

そう言うと、客席からホウーーッという声が聞こえた。

面白い。

一言一言で客が反応する。その度合いが分かる。大学で講演した時は、学生達もすごく緊張していて、こんなにはっきりと反応が返ってこなかった。

まるで戦いをしているような気分だったのだが、ここは違う。すごく素直に、驚いたり興味を示してくれる。

「マンガの楽しみ方は2通りあります。それは、[読んで楽しむ]、そして、[描いて楽しむ]事です。今日は、描いて楽しむ方法をお教えします。まず、簡単なマルを描いてみましょう。」

ぼくが話しをして、ココアちんがパソコンで絵を描いていく・・・・。

 

 2時間近く話しをするためには、話しの組み立てや内容の深さなど、かなり検討した台本が必要だ。しかも、今回のようにどんな人が聞きに来てくれるのか対象が絞れない場合は、かなり苦しむ。

 ぼくの計画では、始めは子どもたちを対象に簡単なことから始めて、次第にレベルを上げていく。しかし、 どんなに上げても中学生レベルまでにしようと思った。

そして、専門用語は、あまり使わない。使う時は、説明を加える。パソコンでマンガを描く時も、パソコンの自動処理部分にはあまり触れないで、自分がパソコンを操っているから絵が描けると言うことを強調する。

こんなふうに組んでいったのだ。台本の厚さは、A4の用紙に45枚にもなった。

 

 不思議なものだ。普段、これだけのものを暗記しろと言われても、なかなか出来るものではない。ところが、出来てしまうのだ。なぜかしら。

大学での講演の時もそうだった。台本を手に持っているものの、それに頼ることもなく言葉が出て行く。練習も、ほとんどしていないのに・・・。横で、ココアちんが感心している。

 ところが、終わった後で分かったのだが、「現代のヒーロー達」という部分で、最近の人気キャラクターを、実際に描いて見せるという部分をすっ飛ばしてしまった。アンパンマンを描きたかったのに、残念で仕方がない。

それと、予期せぬ出来事も起きてくる。

「かっこいいヒーローは、8頭身だったりしますが・・・。」 と、言うところで、

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( ライダーとちびライダー )

仮面ライダー響鬼の話題になった。

そこで、思わず、

「響鬼の変身シーンは、ちょっと物足りないね。オンサーでポーーーンッとすると、空間がユラユラと揺れ変身する。でもね、昔のライダーはもっとかっこよかったよ。変身ポーズというのがあってね、『ライダー、変身 !』って・・。」

そう言いながら、ぼくは変身ポーズをとりながら叫んでいた。客席がザワザワして、笑い声がした。横ではココアちんが、『 やっちゃったぁ。 』とばかりに突っ伏している。

かまうもんか !!

 

 本当に、みんなよく聞いてくれたと思う。そして、講演が、あと10分ほどで終わる頃だった。

扉が開いて、2人の姿が見えた。それは、亡くなった姉の夫だった義兄と、再婚をした奥さんだった。義兄は足が少し悪く、長くは歩けない。

そんな義兄が、ぼくの講演を聞きつけてわざわざ駆けつけてくれたのだ。

ステージからは、奥さんに支えられてやってくる姿がよく見えた。外は、真夏の天気だ。会場に着くまでのあの渋滞。入場するまでに待たされる時間・・・・どんなに苦労して、義兄がここに辿り着いたか・・。

それを考えたら、涙が出そうになるほど嬉しかった。ありがたかった。わずかな時間だったけれど、講演を見てもらえたのも嬉しかった。

 

 講演が終わった。たくさんの拍手を頂いた。 誰もいなくなった客席に、義兄達が戻ってきた。

「ゴロくん、すまん。もっと早く来たかったんだが、混んでしまって・・・。」

「いえ、来てもらえただけで充分です。奥さんもありがとうございました。」

そう言って義兄を見ると、額から汗が吹き出していた。首には、砂やホコリがついて筋を描いている。それだけで、どんなに大変だったかぼくには分かった。

やって良かった・・と、心から思った。

 

本当は誰にも言っていなかったが、ぼくは風邪を引いていた。前の晩から、ちょっと熱があった。薬を飲むことも、寝ることもできなかったのだが、こんな時こそ気力だと頑張っていたら、講演が終わる頃には治ってしまったようだ。

ナスがなる・・・いや、なせばなる !

次、ミツロウさん達の講演につづく。